9月17日
思いがけず先輩と電話する機会を得た二日後。今日は、修学旅行の最終日。
いつも通り学校での授業を終えた僕は、家に帰ってくるとそのまま海へ向かうつもりでいた。ようやく彼女が帰ってくるとはいえ、連絡を取るのならきっと疲れている今日ではなく、せめて明日以降の方が望ましいだろうと思っていたからだ。
「ただいま」
「あっ、兄ちゃんおかえり! なんか、兄ちゃん宛のお手紙が届いていたよ」
「……手紙?」
「うん。部屋の机に置いてあるから、後で確認してみて」
「分かった。結紀、ありがとう」
元々制服から着替えるつもりでもいたし、自分の部屋に入って早速弟に言われたとおりに机の上を確認すると、何やら見覚えのある筆跡が目につく。居ても立ってもいられずそれを開封すれば、中に入っていたのは風車と鮮やかな花々が映っている一枚のポストカードで、裏面には手書きのメッセージも書き込まれていた。
わざわざ封筒に入れて送ってきてくれたのは汚れ防止か、或いは他の人にメッセージを見られないようにするためか。いずれにしても、僕にとって嬉しいサプライズには違いない。
『一紀くんへ
せっかくの機会なので、旅行先のハウステンボスから手紙を書いてみました。
たぶん、一紀くんの家に届くのは修学旅行最終日ぐらいかな?
ここは花が多くて癒されるけれど、もしも一紀くんと一緒に行けたらもっと楽しかったんだろうな、と思いながらクラスの女の子たちと色々見て回っています。
今年の夏休みは私が行きたかった写真展だけじゃなくて、はばたき市の花火大会や海にも一紀くんと一緒に行けて本当に楽しかった。
それと、いつも迎えに来てくれて、この間も家まで送ってくれてありがとう。
また機会があれば一緒におでかけできたら嬉しいです。
これからも、どうかよろしくね。
より』
「……こんな書き方されたら期待しちゃう一方なんだけど。分かっているのかな、彼女」
連絡するのは明日以降に、と思っていたけれど前言撤回。
時計を見て、事前に教えてもらっていた帰宅予定時間は過ぎていることも確認した後で先日かけたばかりの電話番号を呼び出す。
もしも断られた場合は潔く諦めよう。でも、ほんの少しでも可能性があるのなら。やっぱり僕は、一刻も早く君の顔を見たくて仕方がなくなってしまったから。
「もしもし、先輩」
『あっ、一紀くん? ちょうど今家に帰ってきたところだよ。ただいま』
「うん、おかえりなさい。あのさ、急で悪いんだけど」
――明日の日曜日って、空いてる?