9月18日

「一紀くん。今日は、お昼過ぎの待ち合わせになっちゃってごめんね?」
「いいよ。元はと言えば、昨日僕が急に誘ったんだし。今日会えるだけで充分嬉しい」

 いつの間にか秋に色付いていた森林公園のベンチに、二人とも並んで腰掛ける。
 昨日、はばたき市に帰ってきて間もなく一紀くんから再び電話がかかってきたことに驚かされたが、自分の体調も考えて朝一ではなく昼過ぎの待ち合わせになっても構わないかと尋ねたところ、快く承諾してくれた今日の彼は本当に嬉しそうな表情を浮かべていた。

「もう察しているだろうけれど、こちら、一紀くんへのおみやげです」
「ありがとう。レモンケーキと、……こっちは、栞?」
「うん。カステラは他の人と被りそうだったのと、読書用に使えるかなと思って」

 旅行中、悩みに悩んだ末に買ってきた修学旅行でのおみやげを手渡せば、ハウステンボスから送った手紙も含めて喜んでくれた一紀くんの様子に私も嬉しくなる。
 来年は彼が修学旅行に行く番。その時、一紀くんも旅行を楽しめていたらいいな、と密かに思った。

「そういえば、修学旅行とはまた違うお話になっちゃうんだけど。はばたき学園って、クリスマスパーティーがあるんだね。中等部の時にもあったの?」
「いや、中等部も含めたら人数が大変なことになるし、それは高等部だけの催し。学校行事だから今のところは僕も参加する予定。先輩は?」
「ん? もちろん、参加したいなと思っているよ。実は最近、来月からパーティードレスの販売が始まります、って書かれたショップの宣伝カタログがいくつか届いてね。それでもやっぱり、実物を確認してから選びたいなあ、と思ってて」
「ふーん、……なんなら、夏休みに浴衣を買いに行った時みたいにまた荷物持ち、してもいいけど。来月にでも、一緒に見に行く?」
「えっ。いいの?」
「アドバイスができるかどうかはさておき、ね。もちろん、君が女子と見に行きたいというのなら、僕も無理強いはしない」

 その上で私にどうするか、と聞いてくれる一紀くんに、じわじわと胸の中が満たされる。夏休み最後の日曜日にでかけた時と同じく、今の彼がとても優しい眼差しをしているせいか無性にどきどきしてしまいながらも、私はなんとか口を開いた。

「じゃあ、……お言葉に甘えて今回もお願い、していいかな?」
「うん。行きたい店はある程度、先輩の方で決めておいてもらえたら助かるけど」

 ――一日かけて君に似合うドレスを見つけに行くの、僕も楽しみになってきた。

 そんな、期待に満ちた一紀くんの声を聞いてしまった瞬間。
 一気に顔が熱くなったのが分かってしまったが、今更止める術なんて思いつくはずもなかった。

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