ふたり手をつないで幸せなところまで歩きたい

「夜遅くになってきましたが、まだまだ街中は賑わっていますね」
「そうだな」

 年に一度のホリデーシーズンにて、華やかな色合いの飾りや光に満ちた表通りを伴侶と連れ添って歩く。視界の片隅にちらほらと我が隊の隊員たちも見えたが、皆こちらに気がつくと会釈だけに留めて各々の職務へ戻っていったため、部下全員の気遣いをありがたく思いつつ我は楽しげな伴侶を見つめた。
 今日が終わる前にせっかくだからイルミネーションを見に行きたい、と相談された結果快く頷いて、お互いしっかりと防寒してから家を出たのはつい三十分ほど前だったか。幸い、吹き抜ける風は弱く辺りに人も多いため、よほど遅い時間帯まで居残りでもしなければひとまず体調面での問題はなさそうだ。

「ここですれ違う人たち、誰もが笑顔ですね。昼間に見た中継で気になったんですが、あなたと一緒に訪れることが出来てとても嬉しいです」

 感謝の言葉を告げた後、にこにこと微笑む伴侶の瞳に煌びやかなイルミネーションの光が映り込み、その美しさに暫し見惚れる。
 ……本当は今すぐにでも深く口づけて、我の前で恥じらう伴侶の姿も見たかったのだが。我以外の誰かに見初められても困るので、それは帰宅後ふたりきりになってからの楽しみにとっておくことにした。
 隣を歩く我がこんな風に考えていると知られたら呆れられるかもしれないが、もしそうなったとしても構わないほど、伴侶と出逢ってからの我は幸福を感じている。何年経っても可愛らしい、唯一の伴侶と過ごす時間をこの先も大切にしていきたいと願うばかりだ。

「あっ、あっちでマシュマロ入りのホットチョコレートが売られているみたいです。よかったら、帰る前にあなたも飲んでいきませんか?」
「ふむ。童心に返るのもたまにはありだな。勿論、其方の提案に乗るとしよう」

 柔らかくも小さな手を取って、更に瞳を輝かせた伴侶と仲良く露店へと向かう。
 この温もりを決して離すまいと己に誓いながら、我もまた今宵のひとときに高揚していた。

    ◇◇

「今夜は私のわがままに付き合ってくださり、ありがとうございました」
「構わない。この季節だけの催しを其方と見に行けて、我もなかなか楽しかった」

 イルミネーションに彩られた表通りでいくつか露店を見回った後。遅くなりすぎない内に、どちらからともなく手を繋いだ私たちはぽつぽつと言葉を交わしながら家路についていた。
 先程までの賑やかさとは打って変わり、住宅が建ち並んでいる静かな帰り道は私だけだったら心細くなったかもしれない。けれども、今は隣にあなたがいるおかげで全く不安を覚えずにすんでいた。それどころか澄みきった冬の夜の空気さえ、未だ温かさが残る身体には不思議と心地よく感じられて容易く顔が緩んでしまう。

「今宵の其方は、格別にご機嫌だな」
「そうですね。イルミネーションも素敵でしたが、あの空に浮かぶお星さまの下、こうしてあなたと手を繋いでいられて……このまま今日が終わるのを名残惜しい、と思えるほどに満たされています」
「それはそれは! 実に光栄なことだ」

 声を弾ませ、繋いだ手の力も少しだけ強めたあなたの様子に微笑ましく思いつつ、気が付けばあっという間に我が家へ到着する。いつもなら玄関で靴を脱いですぐ居間に向かうところ、私に上着の端を掴まれたあなたがいったん立ち止まって振り返った。

「如何した?」
「ちょっとだけ、屈んでくれますか?」
「む? ……分かった」

 不思議そうに首を傾げても、結局私の言葉通り屈んでくれた優しいあなたへ爪先立ちで自ら距離を詰める。
 そうして勢いのまま唇を数秒押し当てて、離れる間際の一瞬だけ舌であなたの口元を擽った。くちゅり、と思いの外湿った水音が響いて恥ずかしくなったが決して後悔はしていない。ただあなたを独り占め出来る喜びで、既に胸がいっぱいだった。

「……実は、一緒にホットチョコレートを飲みはじめた時から、早くおうちに帰ってあなたとキスがしたいと思っていました。甘くて、幸せな味がして。とっても美味しかったです」

 ごちそうさまでした、と続ける途中で突然あなたから唇を塞がれる。
 啄むようなそれが激しさを伴うのにさほど時間はかからず、開いた口の隙間から伸ばされた舌に絶えず翻弄されながら、無我夢中であなたの逞しい背に腕を回した。
 チョコレート以上に甘さが増し、くぐもった吐息がどれだけ漏れても数えきれないほど深く舌を絡めとられて、それ以上何も考えられなくなる。こんなにも私を大事にしてくれるあなたが大好きで、どうしようもなく愛おしくて。身体の芯から熱くなっていくのも止められない。

「フフッ、斯様に蕩けた顔をして……其方は、我を焚きつけるのも上手だな」
「ん、……キス、もう終わりですか?」
「ここで終わり、とするには些か我も物足りないが。いつまでも玄関先では、其方の身体が冷えてしまいかねないだろう?」

 ――ゆえに、続きは褥にて其方と睦み合いたい。

 熱情が混じった低い声に囁かれて、陶然とあなたを見上げる。頷く以外の返答が思いつかなかった私に、ひたすら嬉しそうなあなたから再び強く抱きしめられた。

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