「もうすぐバレンタインかあ……昔は自分でトッピングとかもして、友達と交換していたんだよね。懐かしい」
「今はつくらないのか?」
「んー、学生時代ならともかく、もし急に会えなくなったら手作りだと傷んじゃう可能性があるからね。卒業してからは友達にも、市販のチョコを渡すようにしているの」
バレンタイン直前のこの時期になると、どこに行っても甘い匂いが漂ってくる気がする。特にデパートでは先月の下旬頃から色々なブランドの販売が始まっていて、私自身事前にチェックしておいたものを売り切れになる前に買い揃えてきたのは記憶に新しい出来事だ。
もちろん隣にいる彼の分も既に準備を終えているのだけれど、当のドレークはこの話題が出てきてからずっとそわそわしており、見ているこちらとしては大変に微笑ましい。
「ところでドレーク。手作りと市販のと、どっちがいい?」
「!」
「人によっては手作りが無理、って場合もあるらしいからさ。私はどっちでも問題ないけど、せっかくだから本人の希望も聞いておこうかと思って」
不要になった片方に関しては自分で食べればいいだけの話なので、たとえどちらが選ばれても本当に何の問題もない状況だ。
さて、彼は一体なんと答えるのだろうとわくわくしながら待っていると、なぜか眉間に皺を寄せたドレークがゆっくりと口を開いた。
「……両方」
「……ん?」
「きみのことだから、もうどちらも準備しているんだろう? だったら、両方ともおれのものにしたい、というのは流石に強欲だろうか」
じっ、と強い眼差しで見下ろされて、思わず溜め息をつきたくなったのをすんでのところで堪える。駄目だ。私は彼の、こういう真っ直ぐなところにほとほと弱かった。
「正直、そう来るとは思わなかったんだけどそもそも聞いたのは私だからね。いいよ。両方とも、ちゃんとドレークに渡すから待っていて」
「ありがとう。すごく、楽しみにしている」
目を細めて笑ってくれた彼のためにも、手作りの分はいっそう頑張らなきゃいけないな、と改めて気合いを入れ直す。
なお、そんな私をこの時ドレークも微笑ましく見守っていたとは気付かず、バレンタイン当日に彼から小さな花束を贈られることになるのはまた別のお話。