たとえば、彼のすぐ隣に腰掛けてみた時。
若干身動いで、自分から触れてよいのかどうか毎回大真面目に悩んでいるらしいところとか、視線も落ち着かずそわそわしているところとか。普段は冷静な人なのに、私との距離が近付いた途端動揺を隠せなくなってしまう彼のことを可愛らしいな、と私は常々思っている。
「隣に座るの、だめだった?」
「っ、だめじゃない、が、」
他に誰の目もない、二人きりの空間で私よりずっと背の高い彼を見上げると、うっ、と喉を詰まらせて必死に視線も逸らされた。普段お互いの休日があまり重ならない私たちは、基本的に外でデートするより今日みたいにどちらかの家で過ごしていることが多い。とはいえ、彼が私の家にやって来た回数はまだ少なく、彼の家で過ごすのならば多少緊張も解けるかと思っていたのだが――今日も今日とて、結果は見ての通りである。
「ふふっ。私たち、付き合いはじめて結構経つはずだけど。ドレークは全然慣れないねえ」
「……、こんなおれに、呆れたか?」
「まさか。慣れないところもひっくるめて、もっと好きになっちゃったよ」
ネガティブな意味ではなく、微笑ましいという思いも込めて相変わらず逞しい腕にくっつくと、分かりやすく彼の動き自体が止まった。既にうっすらと赤くなっていた顔だけに留まらず耳にまでその色が移り、おそらく混乱のさなかにいるだろう彼にはちょっぴり酷な現状かもしれないけれど。それでも私は、こんなに可愛い彼だからこそこれからも一緒にいたいなと願う。
「ドレーク。今日も可愛いね」
「お、おれは男なんだが……」
「うん。私よりずっと力持ちで、頼りになって、真面目な男の人だってこと。よく知っている上で、初心なドレークが可愛い、って心底思っているの」
困惑が含まれた声音さえ、私にとってはひどく心地よいもので。意識しなくても勝手に笑みが零れてしまう。
そうして優しい彼が私を振りほどくような真似もしないと分かっているからこそ、不意に背伸びした私の方から今日も好きなだけ唇を食んでは、更に真っ赤になった彼とただ二人きりの幸せに浸るのだ。